2020年8月3日月曜日

孫正義が人生の決断を下したのは坂本龍馬に憧れたから



いまの仕事楽しい?……ビジネスだけで成功しても不満が残る。自己啓発を延々と学ぶだけでは現実が変わらない。自分も満足して他人にも喜ばれる仕事をつくる「魂が燃えるメモ」とは何か? そのヒントをつづる連載第203回

 ソフトバンクグループの孫正義会長は高校時代、福岡県にある進学校の久留米大学付設高校に進学しました。それが1年生の夏休みに参加したアメリカでの語学研修がきっかけで、翌年2月にはサンフランシスコにあるホーリーネームズ大学の英語学校に留学しました。

「高校を辞めてアメリカに留学する」という彼の選択に対して、担任の教師や家族は「早すぎる」「せっかく入ったんだから、卒業して日本の大学に入ったからにしろ」と反対しました。またこの時、父親が肝臓病で吐血した直後で、「病気の父親を置いて、自分だけのことを考えていいのか」という葛藤が孫正義自身にもありました。

 周囲から反対されて、自分でも悩んでいたにも関わらず、彼はなぜアメリカ行きを決断したのか。決断には常に人物の影響があります。「あの時、あの人が、ああ言ったから」あるいは「あの時、あの人が、ああしたから」ということがあって、人は何かを決断します。

 孫正義のアメリカ行きの決断に影響を与えたのは、明治維新の志士、坂本龍馬です。孫正義は坂本龍馬のファンで、司馬遼太郎の小説『竜馬がゆく』を三度精読したと言います。その一度目の精読が、アメリカ留学を決断した時でした。

 坂本龍馬は土佐藩を脱藩しています。脱藩の罪は重く、親類縁者にも及ぶものでした。この罪が及ばないようにするため、坂本龍馬の姉である乙女は夫と離縁したと言われています。この龍馬の脱藩のエピソードに自分を重ねた孫正義は、家族の反対を押し切ってアメリカ留学を決断したのです。

 この時の孫正義の心情は『人物像』です。「自分もあの人のようになりたい」という気持ちは何かを決断し、粘り強く行動するための強い原動力になります。逆に「こうした方が良い」「こうすべきだ」「この方が合理的だ」「効率的だ」といった理屈をいくら並べてもモチベーションにはなりません。人物の影響こそがモチベーションを左右しているのです。

◆歴史上の人物が人に影響を与える

 決断に影響を与える人物は、恩師や恩人など実際につきあいのある場合が大半です。しかし孫正義に対する坂本龍馬のように、歴史に名を残した偉人が影響を与えることも珍しくありません。

 経営者は維新の志士や戦国武将を尊敬しています。たとえば京セラの創立者である稲盛和夫は西郷隆盛と大久保利通から学んだと語っています。難しい決断を迫られる経営者が織田信長や豊臣秀吉を好むのは単なる趣味ではなく、必然性があってのことです。また、たとえ経営者でなくても、「もっと仕事を頑張りたいけど頑張れない」と悩んでいるならば、偉人たちの言動は圧倒されるような大きなスケールで背中を押してくれます。

 明治維新や戦国時代など歴史的な人物の言動は、のちの研究で通説が覆されることも珍しくありません。しかし、「あの時、あの人は、ああ言ったんだ」「あの時、あの人は、ああしたんだ」という偉人に対する感動が、強い原動力になるのは間違いありません。大河ドラマや歴史マンガで気になる人物がいたら、その人物の言動を調べてみてください。その人柄を知れば知るほど、「自分もこうなりたい」というモチベーションが高まるはずです。

「参考文献:井上篤夫(2004)『志高く:孫正義正伝』 実業之日本社」

―[魂が燃えるメモ/佐々木]―

【佐々木】

コーチャー。自己啓発とビジネスを結びつける階層性コーチングを提唱。カイロプラクティック治療院のオーナー、中古車販売店の専務、障害者スポーツ「ボッチャ」の事務局長、心臓外科の部長など、さまざまな業種にクライアントを持つ。現在はコーチング業の傍ら、オンラインサロンを運営中。ブログ「星を辿る」。著書『人生を変えるマインドレコーディング』(扶桑社)が発売中

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