500人のシニアに聞いた 高齢期に突然訪れた10の予期しなかった出来事とは何か?
人生で起こりうるさまざまな出来事を“ライフイベント”と呼びます。人は一生を通じて、さまざまなライフイベントを経験しますが、人生の前半と後半に起こるライフイベントには大きな違いがあります。
人生前半の主なライフイベントとしては、誕生・就学・就職・結婚・出産・子育てなどを挙げることができますが、これらはどちらかといえば嬉しいライフイベントです。
それに対し、人生後半に起こるライフイベントは、定年(リタイア)、老化に伴う病気、介護、死亡などで、前半のライフイベントと比較すると、どちらかと言えば暗いイベントが多いと言えるでしょう。もちろん、孫の誕生など、嬉しいライフイベントもありますが。
では、人生の後半期に起こるライフイベントは、実際にどのようなものでしょうか。もしかすると、自分で全く予期していなかった出来事が起きてくるかもしれません。予期せぬ出来事を予め知っておくことは、今後自らが高齢期を過ごす上で、なんらかの参考知識を与えてくれることになることでしょう。
そこで、すでに高齢期を迎えている60〜84歳の男女514人の方々に、「60歳以上になってから、それまでに準備・想定外で対応・対処に困った出来事」について聞いてみました。以下、予期せぬ出来事として回答の多かった項目から順番にワースト10として説明していきたいと思います。また、それぞれの出来事への対処アイデアについても併せて記してみたいと思います。
まずはワースト1から5まで見ていきます。
高齢期の予期せぬ出来事ワースト1〜ワースト5
【ワースト1】 気力・体力の低下/体調の不良
高齢期に起きる予期せぬ出来事で最も多かったのが、「気力・体力の低下/体調の不良」でした。
一般的に歳をとると、加齢に伴い、体力・持久力などの運動機能や、骨代謝・糖代謝などの内分泌系機能、さらには物覚えなどの精神機能が少しずつ低下していくことになります。筋力を例にとると、大腿の外側面の筋肉である外側広筋は20-30代の筋力を最大としてそれ以降減少していき、60代から減少率はさらに高くなり、80代では20代の半数以下となります。
そうした急激な筋力・体力の低下が、自分が想定する範囲以上のスピードでやってくることに対し、戸惑いを覚える人が非常に多いのです。
・「越えられると思った柵が越えられなかった」(63歳女性・山梨県)
・「自分の身体が思っているほど動かない。よく躓くようになりました」(73歳男性・北海道)
・「70歳目前になって体力の衰えが急激にきたこと。今まで何ともなかったことができなくなって、正直戸惑っています」(70歳男性・佐賀県)
・「体力の低下は予測していたが、実際に低下すると気が重くなることの方が深刻だった」(67歳男性・神奈川県)
このような思いを感じた人は多いでしょう。体力の衰えと同時に、今までやれたことが出来なくなることも増え、気力を失ってしまう人も多いのです。
【ワースト2】年金が思ったより少ない/出費がかさむ
予期せぬ出来事の2番目に多かったものは、「年金が思ったより少ない/出費がかさむ」という声でした。
・「年金額が予想外に少なかったこと。この年になると月額1万~2万の差は大きい」(76歳男性・大阪府)
・「思ったより生活費、レジャー費、懇親費用かかります。年金だけでは不足するのでいろいろ金策しています」(72歳男性・兵庫県)
昨今のエネルギー価格や消費者物価の値上がりを反映しての声というよりは、公的年金に関する基本知識の不足、もしくは情報アップデート不足が、予想外という声もありました。
・「60歳で、定年退職したら年金が貰えると思っていたのに、いつの間にか65歳からになってしまい、この5年間を埋めるのに必死です」(61歳女性・群馬県)
・「期待していた年金がこんな事になるなんて思いませんでした。確か私が若いころは55歳から年金支給があると聞いていた記憶があるのですが妄想だったのでしょうか」(63歳男性・東京都)
また、年金から天引きされる国民保険料や介護保険料、さらには後期高齢者自己負担の値上げなどに悲鳴をあげる声も聞こえます。
・「切り替えて入った国民健康保険料が高い」(67歳男性・秋田県)
・「年金の額はこれくらいあれば助かると思っていましたが、介護医医療などを引かれ年々少なくなっていくばかりで節約の一言です」(69歳女性・愛知県)
・「介護保険料がだんだん増えて年金から引かれるようになり、どんどん年金が目減りしていくこと」(72歳女性・千葉県)
【ワースト3】突然の病気・怪我・入院
老化は、大きく「生理的老化」、「病的(異常)老化」の2タイプに分けることが出来ます。
「生理的老化」は、病気のない状態の老化のことを指し、ここでは、ワースト1に挙げられた「気力/体力の低下」は生理的老化の範疇に入るものでしょう。生理的老化が続く形で終末期を迎えることができたら理想でしょうが、なかなかそういうわけには行きません。高齢期になると、それまで健康であっても突然の病気や怪我に遭遇し、戸惑うような機会も増えてくることになります。
「生理的老化」に「病的(異常)老化」(疾患やけがが原因でおきる老化症状のこと)が重なることで、老化の速度は早まり、結果として生存寿命は短くなります。いかに「病的(異常)老化」を予防するか、もしくは早期発見するかが重要なのです。
厚生労働省令和2年「患者調査」を見ると、入院の受療率を50代前半を1とすると、60代前半では1.87倍となり、70代前半では3.2倍、さらに80代前半では、6.77倍にまで高まります。高齢期における病気の罹患・入院リスクはそれだけ高いということです。
しかし、にも関わらず、私たちは、突然病気が襲ってくる可能性をあまり深刻に考えず、(もしくは考えることを忌避し)、日常生活を送っているのかもしれません。
・「持病を複数抱えて還暦を迎えた。若い頃は「一つくらいは持病を抱えるかも」と言っていたが現実はちょっと多すぎ。」(61歳男性・福岡県)
・「あと10日で退職の日を迎える日に急性心筋梗塞の発作で入院手術した。ショックでしたが1時間以内に処置をしてもらったので事なきを得ました。何が起こるか予測不能。」(67歳女性・奈良県)
・「心臓の手術。まったく予想もしてなかったので、手術の決断に悩んだ。」(73歳男性・大阪府)
・「脳血栓を発症入院、以後3年半にわたり通院中、依然として不調が続いている。」(76歳男性・神奈川県)
たとえ日頃から備えていたとしても、突然の病気を完全に防ぐことはなかなか難しいでしょう。しかし、こうした事態が訪れた際の備えとして、何をなすべきか考えておくことは重要だといえます。
【ワースト4】脚力の衰え・膝腰の痛み
4番目に多かった予期せぬ出来事は、「脚力の衰え・膝腰の痛み」です。
・運動不足により脚力が衰え、足がもつれることあり、予想以上に「年寄りになった」と実感。歩く際は、大股で早歩きを心がけている」(62歳男性・福島県)
・「歩いていると転ばないか不安になる」(68歳女性・神奈川県)
加齢に伴う筋力の低下や骨粗しょう症などにより運動器の機能が衰えるリスクの高い状態を表す言葉として、「ロコモティブ・シンドローム」が唱えられるようになり、十数年が経過します。
高齢者数の増加とともに、こうした症状を訴える人は確実に増加しています。膝や腰の痛みの緩和・解消をアピールする医薬品、健康食品のテレビCMも頻繁に目にしますが、それだけ膝腰の痛みを抱えている人が多いことを示す証左でしょう。
【ワースト5】配偶者の病気・怪我・死亡
突然の病気や怪我が起こるのは、本人に限った話ではありません。家族である配偶者にも突然の厄災が降りかかってきます。
・「配偶者の度重なる怪我や病気。医者に頼るしかないが、医療費がかさむのが悩みの種」(65歳女性・奈良県)
・「主人の病気が悪くなり 私が仕事をしているが収入はわずか」(70歳女性・神奈川県)
配偶者の突然の病気により生活困難となるケースもあるようです。
高齢期の予期せぬ出来事ワースト6〜ワースト10
【ワースト6】子供が自立・結婚しない/子供のトラブル
配偶者以外の家族の想定外出来事として多かったのは子供の自立結婚に関わる出来事です。
・「70歳過ぎても同居の長男夫婦に子供は授からず、長女は独身。今後の対応・対処方法を教えてほしい」(70歳男性・茨城県)
・「子供4人のうち長男、長女が独身であるとは想像しなかった」(男性84歳・兵庫県)
生涯未婚率は、男性3割、女性2割近くまで上がってきており、加えて合計特殊出生率も1.3を切る現実の中で、子供に結婚、出産を期待するのは「高嶺の花」になっているのかもしれません。
いくつになっても親は子供のことが心配。しかし、子供だからといって自分の思い通りになるわけではないのはいつの時代でも同じです。
【ワースト7】コロナによる外出自粛・旅行に行けない
時節柄とも言えますが、コロナ禍での外出・旅行自粛を想定外、予想外としたシニアの方々もいらっしゃいました。
・「コロナ禍。そろそろリタイアして妻と海外旅行三昧で楽しもうと思っていた矢先のコロナ禍で当てが外れた」(63歳男性・埼玉県)
・「主人が定年退職したら、車で日本縦断しようと話していたのに、コロナ禍になって、無期延期になってしまいました。住んでいる市から全く外に出なくなって、長いこと隠遁生活しているうちに、歳のせいか、長距離運転が面倒になり、出歩くのが億劫になってしまいました」(69歳女性・長野県)
何年もコロナが続くことで、長年温めていた旅行の夢が頓挫してしまう方も。早くこの厄災が終わることを願うばかりです。
【ワースト8】がんになる
【ワースト3】でも「突然の病気・怪我・入院」が挙がりましたが、中でも病名として多く挙がってきたのが「がん」です。
・「元気だけが取り柄の私が60歳の人間ドックで大腸がんが分かり、私の入院中に夫も前立腺がんに」(63歳女性・京都府)
・「肝機能検査の数値は全て良好な状態なのに、肝臓がんだったこと。手術で半分取りました」(73歳男性・北海道)
国立がん研究センターの統計データ(2019年データ)によると、日本人が一生のうちにがんと診断される確率は男性65.5%、女性51.2%とほぼ2人にひとりだそうです。なかでも男性の罹患率は60歳前後から急速に上昇するという統計結果も出ています。生存率は高くはなっていますが、やはりがんは高齢者が気をつけるべき病気のひとつと言えるでしょう。
【ワースト9】目に関するトラブル/病気/視力低下
ワースト9は「目に関するトラブル/病気/視力低下」です。
・「白内障や緑内障で、視力が低下した事」(65歳男性・埼玉県)
・「緑内障になった。初期だったので定期通院と毎日の目薬でOKだった」(77歳男性・神奈川県)
高齢期に起こりがちな疾病としては、白内障、緑内障、飛蚊症などがあります。
【ワースト10】仕事が見つからない
そして最後のワースト10として挙がったのは「仕事が見つからない」ことでした。
・「定年になり、継続雇用制度で退職した会社の契約社員になったが、仕事は同じで給料は半分。権限もなくモチベーション維持がこんなに大変とは想像していなかった」(60歳男性・埼玉県)
・「介護離職して、介護終了し、再就職不可になった」(65歳男性・北海道)
・「定年退職し思いきり自由に行動できると思っていたが、趣味のゴルフ、釣りなどが3年もすればそんなに満足感が得られなくなり、仕事をしようと思っても門戸が狭く再就職がことのほか困難だったこと」(82歳男性・岡山県)
など、一旦リタイアした後の再就職は思いのほか大変であることを実感させるコメントでした。
以上、「60歳以上になってから、それまでに準備・想定外で対応・対処に困った出来事」について聞いてみました。いかがだったでしょうか。
世の中は常に、自らの予想をはるかに超える出来事や厄災に遭遇します。いざそうした際にも、何らかの形で備えておく「自助努力」がこれからの超高齢社会には求められています。このリストを参考にご準備いただけましたら幸いです。
1958年生まれ。専門はシニアマーケティング、超高齢社会、未来予測。西武百貨店、流通産業研究所(セゾン総合研究所)パルコを経て(株)電通、電通シニアプロジェクト代表。(財)国際長寿センター客員研究員、早稲田Life Redesign College(LRC)講師、社会福祉士。著書に『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』(翔泳社)『ショッピングモールの社会史』(彩流社)『超高齢社会マーケティング』(ダイヤモンド社)『吉祥寺が「いま一番住みたい街」になった理由』(ぶんしん出版)『発達科学入門』(共著・東大出版会)など。
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